Weekend Note

2010年ブログ開設。日常、建築、旅行などについて書いています。

これがハドリアヌス(イギリス旅行記 13)

今日はニューキャッスルから日帰りで世界遺産ハドリアヌスの長城(Hadrian's Wall)に行く。ローマ帝国の皇帝ハドリアヌスケルト人の侵入を防ぐために建設した城壁だ。

ニューキャッスルの観光案内所のおばさんに従って、バスで一時間ほど離れたド田舎で降りる。そこから1マイルほど歩いて…と聞いたのに、実際は6マイルほどあった。き、聞いてない。他に交通手段もなく、覚悟を決めてほとんど人のいない、羊だけはたくさんいる丘を越え越え歩き出す。途中の分かれ道で道に迷い、通りかかった車を止めて道を尋ねて単独行軍を再開。歩くこと3時間、ついに到着する。

イカーで来た観光客やフランスの修学旅行生たちなどがいる。遺跡自体の保存状態はさほど良くなく、石がかすかに残っているだけだが、この場所はどうだろう。何もない!ハドリアヌスはローマからわざわざこんな地の果てのような所まで旅してきて城壁を作らせたのだ。地の果てにある城壁と、今もヨーロッパの各都市に残る円形闘技場や公共浴場の娯楽施設、これらを別々ではなくつながったものとして考える想像力が試されている気がした。

ハドリアヌスは、特に建築専門の人にとってはローマのパンテオンや、ティヴォリのヴィラ・アドリアーナの造営で知られているが、それはどちらかといえば趣味のようなもの。彼の皇帝としての責務には、むしろここに来てこそ肉薄できるのではないか。

計10年以上にもおよぶ長期視察旅行で帝国をくまなく回り、防衛体制を再構築したハドリアヌス。それも事件があって慌てて赴いたわけではなく、危機を未然に防ぐために。つくづく知力・体力を兼ね備えた偉い人だったと思い知る。往復12マイルの道のりは、ハドリアヌスに歩かされているような感覚もあった。