Weekend Note

2010年ブログ開設。日常、建築、旅行などについて書いています。

森の墓地(スウェーデン、フィンランド旅行記 3)

ストックホルムの郊外にある「森の墓地」は、広大な森林の敷地の中に墓地、火葬場、礼拝堂などが点在している。設計を手がけたのがグンナール・アスプルンドとシーグルド・レヴェレンツ(※途中からアスプルンド一人)。世界遺産にも登録されていて、一般に広く知られている。ストックホルム二日目の日曜日、念願叶っての訪問で、何時間も過ごしていた。

火葬上や礼拝堂の個々の建物もとてもよかったが、何より敷地全体のランドスケープ、あるいは環境デザインとでも言えばいいのか、そのありように感銘を受けた。「死者は森に還る」という死生観。これをもってすると、アスプルンドたちの意図に近づける気がする。

敷地の多くを占めるのが、垂直性の強い針葉樹の森、その足元に広がる墓地。散歩やジョギングなど、公園のようにも使われている。正面入り口を入ってすぐの、有名なショットは、お墓は写らないが、なだらかな坂を上り、石の十字架、火葬場を経て、再びなだらかに下って鬱蒼とした森に導かれる、奥ゆかしいシークエンスを表している。建物の設計も、そうした人の動き、心の機微を確かな手がかりにして考えられていると感じる。建物や動線の配置から、椅子のデザインに至るまで丁寧に…。
「見た目から入っていない。コンセプトを守っている姿勢が印象的だった。」というような意味のことを、V6の岡田君も語っていた。


それにしても、アスプルンド個人の才能と同時に、「森の墓地」という豊かな場所を作り出した社会の懐の深さを感じる。墓地を充実させるのは非合理だという理屈ももちろん筋が通る。けれど、死者のための豊かな場所が用意されていると知っていることが、生者に言葉では言い表せない安心感を与えるのではないか。芝生で凧揚げをしていて、、石の十字架に上手く凧が引っかかって喜んだりしている家族連れなど見て、改めてそう思った。こうした合理と非合理のバランスに、北欧の成熟した社会を見るのである。