Weekend Note

2010年ブログ開設。日常、建築、旅行などについて書いています。

天才リケの構想力(ラングドック旅行記 2)

パリの留学先のラ・ヴィレット建築大学のメトロの最寄り駅の隣の駅の名前が「リケRIQUET」だったのだが、この名前こそミディ運河の建設者、17世紀の塩税徴収請負人のピエール=ポール・リケその人に由来する。娘の持参金までなげうつなど、運河建設のための涙ぐましい努力のエピソードも豊富。

実際に目にしたミディ運河は、並木があって水があってきれいな景色だな、という素朴な第一印象だった。だが全長240kmの長い運河。高速道路などで運河に近づいたり離れたりしながら移動していても、太陽とミディ運河だけはどこまでもついてくる。そして取水源の山地や貯水池、各地の閘門、トンネル、水道橋、運河沿いの街etc.etc.を訪れて、リケの驚くべき構想力がジワリジワリと脳裏に刻まれていく感覚を味わった。大西洋と地中海を結ぶこの土木事業は、地形や気候の変化はもとより、文化的にも一枚岩ではない地域を横断し、またローカルな素材や技術も巻き込みながら実現されたもの。リケが天才と言われるわけだ。

こうして完成したミディ運河はラングドック地方の土地に新しい論理をもたらした。カステルノダリなどミディ運河特需で栄えた街があったり。また僕が出発前に読んでいた論文では、ミディ運河沿岸に生じた土地所有の問題が取り上げられていたりと、幾多の観点から語られうるものだ。

偉大な構想力によって成された事業は、「あなたならどう読むか見せてみろ」と、訪れる者を時代を超えて挑発する。絵葉書のように風光明媚なミディ運河も、まさにそうした大事業だった。