Weekend Note

2010年ブログ開設。日常、建築、旅行などについて書いています。

思いがけないはち合わせ

先日、多摩ニュータウン方面に行く機会があり、夕方近くに帰りの小田急線の新宿行きの区間準急に乗車した。座席の七割程が埋まった空き具合だったので、僕は席に座って、読んでいた本を取り出した。それからすぐ、30才くらいに見える、華奢な眼鏡をかけた、凛とした雰囲気の漂う女性が隣に座り、彼女も同じように薄茶色の紙のカバーをした文庫本を開いた。そこで何気なくその本に目をやったとき、ハッと驚いた。フィッツジェラルド…!

というのも、自分がそのとき読んでいたのがヘミングウェイだったから。ともにアメリカを代表する、互いに関わりの深い同世代の二人の作家がこんな所で隣同士になるとは。しかも、どちらも全く違った個性を持ちつつも、僕の大好きな作家である。電車内で本を読むのはごく普通だけれど、こんなことは人生で初めて。

隣の人が読んでいたのは短編集だった。僕は『移動祝祭日』。これはヘミングウェイがパリで暮らしていた青年時代を後年になって振り返った内容の本だ。僕はそのときまだ前半部を読んでいたのだが、後半部には多くの分量を割いて、まさに「スコット・フィッツジェラルド」と題した章がある。そこで僕は、さりげなくその箇所にページを移した—

初めてスコット・フィッツジェラルドに会ったときは、実に奇妙なことが起きた。……
隣の「しとやかなゼルダ」さんは集中して読み続けていて、新百合ケ丘で降りていった。こちらのフィッツジェラルドに気づいたかは分からない。ところで右斜め上に目をやると、ちょうど缶コーヒーの吊り広告にヘミングウェイの姿が。この偶然の邂逅を見下ろして喜んでくれていることだろう、と考えることにした。