Weekend Note

2010年ブログ開設。日常、建築、旅行などについて書いています。

なんとも有難い繋がり

1か月以上にわたって従事してきたコンペの提出が終わった。このブログでもここ何回か書いてきたように、心身ともに非常にきつかった。複雑に入り組んだ設計条件のパズルを解くことに苦戦し、建物形態のデザインはまとまらず、スケジュールは常に後手に回った。そして個人的にも、これまで経験したことがないほど「自分の能力を充分に発揮できない」ことのフラストレーションを感じる日々が続いた。しかし言い訳はすまい。自分のデザイン力やコミュニケーション力をもっともっと鍛えていかなければ。

このように精神衛生上よろしくない疲労感は残ったが、気持ちの切り替えも早くなったと思う。無事に提出できてひと区切りついた時には、すでに「さて今回は、誰がこの精神状況を救ってくれるのかな」との楽しみを考えてもいた。元々会う予定だった知人と会ってだいぶ気分は回復し、加えて、ふたつの文章が上の期待に応えるものとなった。


梨木香歩の『渡りの足跡』。その存在は知らなかったが、本屋で見つけて何となく心ひかれて買った。渡り鳥を扱ったノンフィクション、ネイチャーライティングだ。著者の強靭と言ってもいいほどの自然そして人間への眼差しに支えられた高貴な文章に圧倒される。仕事が大変だったことと関係なしに、心が洗濯されたような読後感を味わった。


次に、外国の建築事務所に勤めている知人の、最近のブログの記事。久々に更新されているなと思ったら、この人もコンペに追われていたらしい。

先日、大きなコンペの提出が終わった。
最終2週間から飛び込みでデリバリを行うピンチヒッターの役割。

との書き出しから始まり、コンペのチームに参加したところから提出までがストーリー仕立てで書かれていた。A4で印刷してみたら数枚にもなったほどの分量の、長い記事だった。一気呵成に書かれたようなスピーディーな文体で(人には心地いいと感じるリズムがある)、コンペ期間中の奮闘ぶりが描かれている。最後にはどうにか提出にこぎつけ、自らの成長に確かな手応えを感じたことが記されてしめくくられていた(けれどそれは自信でこそあれ、自慢ではない)。僕にとってまさにピッタリなタイミングで、よい刺激を受けることができた。洗濯された心は健康的な太陽光と風で乾かされ、僕はここに至って、また謙虚な努力家であろうという、明晰な自覚を取り戻す。


ところで、以前彼を訪ねにいった飛行機の機内誌に梨木香歩の旅の紀行文(たしかスウェーデンへの旅だった)が載っていて、印象に残っていた。それが今回「本屋で見つけて何となく心ひかれる」ことに直接的に繋がっている。偶然か必然かはわからないが、なんとも有難い繋がりだった。