Weekend Note

2010年ブログ開設。日常、建築、旅行などについて書いています。

ぜんぶ雪の…

2日目は青森市周辺を回る。まずは市街からバスで20分ほど行き、青森県立美術館へ。青木淳さんの設計で2006年に開館したこれは建築業界では超有名な建物。隣接する三内丸山遺跡の発掘現場から着想を得て設計され、発掘現場のトレンチ(濠)のように、地面が幾何学的に切り込まれ、その上から白く塗装された煉瓦の量塊が覆いかぶさっている。…と、なかなか説明が難しく、実際に見なければ理解が難しい空間である。今回の旅行の一番の目的だったのだが、先に言ってしまうと、期待が大きすぎた分、がっかりした気持ちも大きかった。普通の行政の美術館よりはユニークな建築で、建築専門でない人も一見の価値ありなのは間違いないと思うけれど、細かい所の汚れが随分目につくし、どうも「設計者のコンセプトの中を歩いている」という感覚が最後まで抜けなかった。もっとも、これは建物のせいではなく、床壁天井に土の面と白い塗装の面が入れ替わり立ち代わり現れ、部屋の大きさもバラバラ、複雑な動線、、、そんな特異な空間を展示が活かし「きれて」いないことも大きそう。じゃあどうしろって言うんだよ、と言われると分からないのだが、この建築の可能性はまだまだこんなものではないのではと思った。

青森市街に戻り、次のバスまで少し時間があったので市街を散策する。しかし、連休というのに人手は少なく、アーケードの多くの店にはシャッターがおり、よそ者ながら心配になるほど「何もない、さびれた地方都市」をあからさまに感じてしまう。これを見ると、観光の目玉の役割を背負っている青森県立美術館がやはりヒロイックに思える。駅ビルのなかのスタバは満席で、大野先生が以前話していた「旅行客は蕎麦屋を喜び、地元の人はスタバを喜ぶ」との言葉は的確だったのだなあと思い返す。

午後は「国際芸術センター青森」を見に行く。市街からバスで40分ほど、自然豊かな森の中にあるアーティスト・イン・レジデンスで、アーティストが一定期間滞在し、制作や発表を行える場だ。設計は安藤忠雄さん。バスの終点で降りると樹木の香りが漂い、市街から随分離れて自然の中に来たなと感じる。森のほうへ数分歩いていくと、高さをおさえた円形の展示棟が見えてくる。少し離れた矩形の創作棟・宿泊棟も合わせて、昨年末に訪れた直島の地中美術館でも見ることのできた「自然に埋没する幾何学の建築」の凛とした美しさが見事。それは視覚的な美しさだけでなく、半屋外空間の気持ちよさなんかも。展示も面白く、帰りのバスの都合が許せばもっと長居したかった。

と、今回の旅行は良い悪いの感想がわりと分かれている塩梅だが、雪の季節に来ると全く印象が違うかもしれない。青森市は世界の30万人都市の中でも最も積雪量が多いらしく、冬の厳しさにどう対するかという視点が何事をも貫くのではないか。今回、5月のうららかな日には自閉的な建物に見えた青森県立美術館も、周り一面雪になれば、あの土色が俄然映えてくるのではないかとも思われる。言葉のそのままの意味で「ぜんぶ雪の、、、」てなものですかね。