Weekend Note

2010年ブログ開設。日常、建築、旅行などについて書いています。

元気で行こう。絶望するな。

3日目、今日のメインは「斜陽館」。太宰治の生まれ育った家。2泊滞在した青森市を後にし、西の津軽方面へ。1時間ほどバスに揺られ五所川原駅へ、次いで津軽鉄道走れメロス号」で金木駅へ向かう。津軽鉄道は人気のローカル線なのか、団体客も数多く乗り込む。確かに、車窓からみえる景色はどこまでものどかな田舎の風景、田んぼやりんご畑が眺められ、そして岩木山の優雅な構えもはるばる見晴らせる。

金木は本当に小さな町ながら、太宰治の出身地かつ津軽三味線発祥の地でもあり、町のスケールに対してちょうど良いと思われる量の旅行者が歩いている。町の至る所に『走れメロス』や『津軽』の一節を書いた看板が見られる。駅から5分程度歩くと「斜陽館」の豪壮な建築に到着。大地主で貴族院議員も勤めた太宰治の父が明治40年に建てた大豪邸だ。「斜陽館」のパンフレットによると

階下:11室278坪
2階:8室116坪
宅地:約680坪(附属建物や庭園含む)

昭和25年から旅館「斜陽館」として観光名所になり、平成8年に金木町が買い取り、現在の太宰治記念館に至るようだ。町で一番の豪邸だったらしい。ただ、建物はデカいが、趣味のよしあしから言うとイマイチ。和洋折衷の意匠は統一感に乏しい。明治期の、和風ベースにがんばって洋風も取り入れた感じは、まあよく伝わってくるが。小作争議などの対策だったという煉瓦の塀も、今の時代から見ると大袈裟で気に入らない。「風情も何も無い、ただ大きいのである」と太宰に書かれることになるのも納得されてしまう家だ。それでも家の「ヤな感じ」に関しては太宰治に責任はなく、月並みな言い方ではあるが、太宰や兄弟、乳母や友人といった人々の息づかいが感じられることはやはり嬉しい。建物が残っていることの力だろう。


昼食後も時間に余裕があったので、近くの津軽三味線会館での生演奏を聴く。それから金木駅で無料のレンタサイクルを借り、北に1,2キロほどの芦野公園へ。『津軽』にも登場する桜の名所で、今年はもう桜は散ってしまったが、主に休日を過ごす家族連れで賑わっている。遠くの土地の、地元の人たちで賑わっている場所では一段と旅情が深まる。公園内の芦野湖は日本海が近いためだろう、潮の香りもする。岩木山も望め、海も感じられる金木という土地は、富士山ふもとの太平洋沿いに少し似ていているところがある気がした。

太宰治の故郷はかくまでのどかで自然豊かな風景が続いていた。太宰にまつわることといえば、やがて『人間失格』を書き、入水自殺に至るプロセスとして捉える考え方が自分の中にも根強くあった気がするけれど、それは随分と一面的なものの見方なのだと思い、「本当の旅の目的は、新しい景色を見ることではなく、新しい視点を持つ ことにある」なんて言葉も思い出されて。