Weekend Note

2010年ブログ開設。日常、建築、旅行などについて書いています。

スポーツと形について

招待券を頂いたので、先々週の日曜日に、体操の全日本選手権(種目別)を見に、代々木体育館に行ってきた。僕は体操には明るくないが、中高で体操をしていた会社の先輩と一緒に行き、色々と教えてもらいながらの観戦は楽しかった。

最初に競技の話。採点競技特有の、ミスしないかハラハラする緊張を感じながら演技を見守る。特にあん馬と鉄棒のスリルは格別だ。日本トップクラスの選手たちの中でも、床での白井健三や、鉄棒の内村航平らオリンピック代表クラスの選手は素人目に見ても異次元だった。内村は鉄棒のみに出場し、大会の大トリとしての演技だった。他の何人かの選手たちは落下してしまう場面もあったが、内村は落ちそうにないどころか大技を連発し、技と技の間の普通に回転しているだけのような動きでさえ躍動感が並外れているのだった。先輩の解説によると、内村は世界的に見ても、テニスのジョコビッチのように圧倒的に強いようだ。

ここから少しずつ話題を変えていって、まずは代々木体育館の建築はやはり大傑作だということ。構造と計画が見事にマッチした、崇高とさえ表現できるような大空間。照明や空調の設備のスペックの低さという致し方ない点だけが難点として際立つほどに構造の力強い表現は褪せない。ふつう建物というものは、機能も視覚的なデザインも、全ての要素が次々と時代遅れになっていき、古臭くなった姿をさらすものなのに。

次に、体操の器具の形のデザインも興味深かったこと。つり輪はまさに力のベクトルの直截な図のようだ。跳馬は以前は単純な箱型だったのが変化あるいは進化して、平べったい面が踏切板に向かって少しカーブするような、まさに馬の背に似た形になり、難度の高い技に挑戦しやすくなったそうだ。また、鉄棒については、小学校の校庭にあるような硬い鉄棒と違って競技用の鉄棒はかなりしなりが大きいことを以前から不思議に思っていたが、ネットで調べてみると、
「鉄に特別な焼き入れをしているのと中が空洞で折れてもいいようにワイヤーが入っているのでよくしなります」
とのこと。スポーツというものは、選手たちの力と技が、道具やルールとかみ合いながら発展していくのだとよくわかる。

先にジョコビッチの名前が出たのでテニスに目を向けてみると、ネットの中央が少したるんで低くなっていることで、相手コートの中央よりも端に打つほうが難しくなるわけなので、これも競技を面白くする、よくできた形だと思う。

われらがサッカーでは、コーナーフラッグのしなり具合が注目に値する。コートの角に来たボールを、スローインゴールキック(あるいはコーナーキック)に分けるために必要な棒だが、硬ければ選手の怪我に繋がってしまい、危険。そこであのように棒にしなりを持たせることは優れた解答だ。さらにこれによって、コーナーフラッグの性質を上手く利用したゴール後のセレブレーションもいくつか生まれることとなった。1998年ワールドカップ・フランス大会でのアンリは棒を掴んでしばしクールに静止し、やをら思い切り振りはなして喜びを爆発させ、2014年ブラジル大会でのダビド・ルイスフンテラールは、劇的なゴールを叩き込んだのちコーナーフラッグに猛烈なジャンプキックを放ち、サッカー史に名シーンを刻んだ。