Weekend Note

2010年ブログ開設。日常、建築、旅行などについて書いています。

高校生に語る建築

僕の出身高校である熊本の高校の二年生が二泊三日で東大のオープンキャンパスに訪れる毎年恒例の「東京ツアー」、その一環で東大卒の社会人OBの人たちの話を聴く会があり、過去二年と同様に僕も呼ばれ、参加してきた。会場は飯田橋にあるビルの貸会議室で、生徒は五十人ほど、社会人は様々な職種から九人が集まった。

午後七時半に開始。生徒たちを見渡してみると、お、今年は顔つきが引き締まって充実しているな、という気がした。十八歳選挙権の影響で高校生の間にも大人の自覚が強まっているのかなと勝手に推測してみる。あと他に昨年までなかったこととして、ポケモンのグッズがたくさん見える。まずはじめに社会人が皆横一列にそろって前に並び、一人ずつ生徒たち全員に挨拶と自己紹介をする。現在の職業、高校時代のこと、東大を目指した理由などについて話す。そのなかで多くの人が、当時の先生から「君なら東大行けるぞ」と声をかけられ東大を意識するようになった、と話していたことが、とても印象的だった。一方、僕は高校時代は意識したこともなく、それどころか、一年生か二年生の頃に父から「東大には行けないだろう」と言われたことをよく覚えている。今振り返ると、父は一般論としての内容を何気なく言っただけなのだが、わざわざ可能性を狭めるようなことを言わずともよかったのにと思う。しかもそれでいて、つい先日のこと「違う高校だったら東大に行けなかったんじゃない」と言われた。父も同じ高校の出身で、母校への思い入れの強さがこういう形での賛美になって表れるのはわからんでもないが、まったく調子よくっていやになる。まあしかし、東大に行けないと言われてすんなり受け入れた自分も少し情けない。成績が良くはなかったが、そこまで悪いわけでもなかったんだから。

自己紹介が一通り終わると、次は社会人一人に対して生徒たち五、六人くらいずつのグループに分かれる。生徒たちは関心のある職業に就いている社会人の話を聴くという趣向で、これが二セット繰り返される。昨年までの経験から、生徒たちのからの質問を待っているだけでは話が止まってしまうことがわかっていたので、今回は自分が高校から大学、そして現在の仕事にいたるまでどう建築に取り組んできたかを紹介するスライドを用意し、最初の二十分ほどはこちらから話をして、その後に質疑応答という形式にした。大学に入学してから十年になる今年に、かけ足ででも自分のあゆみをまとめられた良い機会となったし、高校生に対して建築とは、設計とは何かを説明することは自分にとっても勉強になったと思う。説明のなかで強調したのは、建築は多くの要素から成り立っていること(強・用・美という言葉は本当に伝わり良い)、建築は多くの人の力で作られるものであること、設計者の重要な役割は全体を調整すること、設計ではたえずお施主さんや専門家の方々のフィードバックを得て試行錯誤しながら案を練っていくこと。

僕の場合は大学での勉強が今の仕事に直接的に繋がっているのでその点の説明はし易かったけれど、「留学の経験がどうつながっているか?」という質問には言葉が詰まってしまった。今現在会社で働いている限りでは、多くの周囲の人からは「留学=外国語ができる、なんかかっこいい、楽しそう」みたいな、大雑把で美しさに欠ける方程式に当てはめられる程度であるしなあ。留学と仕事のつながりを明快に意識化&言語化することはひきつづき課題。質問してくれた高校生にも正直にそう答えた。そしてちなみにわたしの朗読とあなたたちの恋愛はひきつづき瀕死。

その他の質疑としては以下のようなものがあった。建築をより身近に、面白く思ってもらえるとよいな。

Q、建築の道に進むにはセンスがよくなきゃだめ?
A、必ずしもそうではないし、ある程度まではトレーニングで向上すると思う。また、絵が上手くなければだめか、数学や物理が得意でなければだめかなどもよく聞かれるが、答えとしては、だめではない。自分の長所を生かしてどう関わっていくかが大切なので。逆に、絵がうますぎたり、スキルがありすぎたりすると、発想が柔軟でなくなることもありえるので奥が深い。

Q、どんなときに仕事の楽しさを感じるか?
A、うんうん考えた末に良い案が浮かんだとき。それが他の人にも納得してもらえたとき。

Q、新国立について、どの案がよかったと思うか?
A、(やっぱり聞かれたと思いながら)ザハ案。質問してくれた高校生も同意見だった。