Weekend Note

2010年ブログ開設。日常、建築、旅行などについて書いています。

素晴らしき哉、水平(イスラエル、ヨルダン旅行記 8)

9月17日 午後

機内の窓からヨルダンの陸地が見えてきた。オレンジがかった大地からかすんだ空までの色のグラデーションが美しい抽象絵画のようだ。クイーン・アリア国際空港には昼過ぎに到着し、入国審査、荷物受け取りも済ませる。天気は100%の確率通りの晴れで、過ごしやすい暖かさ。コンクリート打ち放しによる空港の建物も、大味な広壮さでこの日本人旅行者を喜ばせた。バスとタクシーを乗り継ぎ、アンマン市内のホテルへ移動する。車窓からは即物的で彩度の低い、やはり広壮な風景が広がっている。生まれて初めて見るような色彩が旅情を誘う。アンマンのはずれの大きなロータリーでバスを降ろされ、待ち構えていた何台かのタクシーのうちの一台に乗せてもらう。ヨルダンの、というか外国のタクシーはぼったくりが多いと身構えていたので、ホテルの前に停車したところでタクシーの運転手さんが両手を突き上げて
Wellcome to Jordan !
と言ってくれた時も、せっかくのWellcomeの部分が聞き取れなかった始末だった。今でも、疑心暗鬼を生じていた当時を振り返って反省する。

こうしてアンマンの宿へチェックイン。東京の家を出てから、かれこれ30時間ほどは過ぎていただろうか。地球上のあるアドレスから別のアドレスへ正確に到達できたことの奇跡感にしばし浸る。旅程に余裕をもたせるためペトラ遺跡行きをあっさり諦め、その分アンマンに当初の予定より二泊多く滞在する交渉もフロントですんなり受け入れられて一安心する。そして部屋に通され、大きなベッドに寝転がり、ほとんど丸二日ぶりに水平になる。仰向けに大の字になり、無事到着できてよかった、水平になれるのはなんと素晴らしいことかと、ユーロを制したクリスティアーノもかくのごとき歓喜の心境だったかと勝手に思いつつガッツポーズをきめた。

さて仮眠をとってから(といってもまだ興奮状態にあるのか、熟睡はできず)、夕方には旅のウォーミングアップがてらホテルの近所を少し歩く。ホテルはアンマンの中心部からは少し離れていて、周辺の第一印象は「殺風景」。しかし三日後にアンマンを去る頃には、閑静で落ち着く住宅街との思い入れを抱くまでになる。『高慢と偏見』ではないけれど、第一印象というのは時にあてにならず、厄介なものだ。ホテルの近所を歩くといっても、もはや眠気でフラフラだ。なんとか食事だけはしっかりとり、部屋に帰ってシャワーを浴びるなどしてようやくゆっくり、と思いきや、飛岡が紹介してくれたエルサレム在住のH君から連絡が来ていて、

「今週、エルサレムの旧市街は若干荒れてるので、ダマスカス門から岩のドームに続く道には、近づかない方がよさそうです。」

まじすか…まさにそのエリアに良さそうな宿を予約していたのに、その展開来ちゃいますか…。慌てて宿の変更の手配にとりかかる。念のため荷物に入れてきたタブレットが早速火をふき、予約のキャンセルと、H君のアドバイスにしたがって交通の便の良い新市街のトラム沿いにある新しい宿の予約を一気に済ませる。早寝が大事と二十時半に就寝。