Weekend Note

2010年ブログ開設。日常、建築、旅行などについて書いています。

ついにイギリスへ

建築学科の同級生がロンドンに留学するので仲間たちで送別会を開いた。場所は渋谷。マークシティの中で道に迷ったため少し遅れて道玄坂の中ほどにあるビルの高層階のお店に入ると、懐かしいようなそうでもないような顔がもう揃っていた。

主賓を含めて六人が集まった。ほんの最初こそ久しぶりに会う気恥ずかしさが少なくとも僕にはあったけれど、それぞれが今していることを共有するだけで自然と話は流れ出す。建築士Kの義母が美大に入って魅力的な絵画を描いていること。建築士Oが設計を担当しているコーポラティブハウスでの住み手や現場との調整の苦労。さらに、万が一東京に来ていればと思って送別会の連絡だけはしていた福岡にいる同級生が電話をくれたりもした。個人的にツボだったのは建築家Tの手がけている共同住宅が建主の意向により「ヒルベルザイマーみたいな」面白味のない計画になりつつあるというくだりで、ヒルベルザイマーの名前が彼の口から出た時はあまりに久しぶりに聞くその名前に一瞬虚を突かれたが、数秒たって二十世紀初期のこの都市計画家の、箱状の巨大な建物が等間隔で単調に並ぶ間を直線の道路が通り、人間は蟻のように小さくぽつぽつと描かれているドローイングが頭にパッと浮かんだ時には思わず吹き出した。

このように、トリュフォーの『アメリカの夜』ではないけれど、建築関係の仕事をしていても皆それぞれ日々何かしらのドラマに遭遇しているのだから、話題に困るということはあまりないのだった。加えて、主賓のこれからのイギリス生活に話がおよぶと、会話の過・現・未の構成比率がより均整のとれたものになっていく感じがした。その「未」のなかの、おそらくロンドンのフラットの窓際あたりに、僕たちからの餞別の小さな木製の玩具セットが並べられている情景がはっきり想像できることも喜ばしかった。彼女は何年も前から一度仕事を辞めたら留学したいと話していた。

店を出て道玄坂を下って、マークシティの近くで軽く二軒目に入る。ずいぶん前にも書いたけれど、渋谷でこうして集まると、建物だけでなくとりわけ道や坂に記憶を埋め込んでいく感覚を味わう。このときの道玄坂では、学生時代の設計を情けながったり恥ずかしがったりしたらきりがないよねという話など。

二軒目の立ち飲み屋では、建築士Kが教えてくれた「東京タウンマトリックス」が面白かった。首都圏の街と人種が一目で分かるという謳い文句のそのサイトによると、豊洲や勝どきは「勘違いセレブ液状化ゾーン」、下北沢や阿佐ヶ谷は「サブカル気取り中二病タウン」、たまプラーザやあざみ野は「ヨコハマ憧れ文化圏」、原宿や表参道にいたっては「論外ぱみゅぱみゅ」。ちなみに僕は「東急沿線原理主義者」のレッテルを貼られているようだ。住所が厳然としてあるのだから否定のしようもない。僕が昨年度にいた部署の方が冗談まじりに、こういうのをエリアハラスメントと言うのだと語っていた。ロンドンでは時に冗談を越えて辞書的な意味での人種や民族に関わるデリケートな問題にも接近しそうだけれど、とにかく元気で行ってらっしゃい。という強引なまとめ。