Weekend Note

2010年ブログ開設。日常、建築、旅行などについて書いています。

もう冬が終わってもいいと 2

○話は前後するが、11月中旬、大学からの友人同士の結婚式があり、自分としてはこれが11月のメインイベントと位置づけていた。とはいえ実際、式に出て今さらかしこまった場に並ぶ2人を見ても、むしろお互い気恥ずかしい気もするし、彼らも普段と何ら変わりない気分でいるように見えた。つまり、他の結婚式と比べると相対的には、主役の2人が随分と淡々としていて、落ち着いているように見えた。なお、何人かの懐かしい知人と再会できたのがよかった。

○翌日、式に着ていった衣類をクリーニングに出し、特に新婦の女性は外国で働いているのでしばらく会わないのだろうなと多少の感慨に浸りつつ家に帰ると、2人から、数日後の祝日にスノボに行かないかと急な誘いが届いていて、たいへんに驚き、うれしく思った。彼らが車を出してくれ、もう一人の友人と4人で新潟に行くことに。
スキー場はちょうどその日から開いたところで、雪も十分に積もっていた。みんな久しぶりのスノボだったとはいえ、すぐに身体も慣れ、順調に滑る。自分はその当時仕事が重要局面にあったので、何も気にせはしゃぐというのとは少し違ったけれど、一緒にいてまったく気が張らない人たちなので気楽である。学生時代のノリを再現しようとするのではなく、その時々に応じた関係や距離を微調整し続けることに不思議な楽しさがある。それにしても、東京では紅葉が盛りの時期にスノボに行こうとは。自分にはまったくその発想がなかったので、2人は天才かと思った。完全に冬を先取りした気分だ。
それから、もう一人の友人についても、天然の性格は相変わらずで、こちらもある種の天才の域にあるかもしれない。1.死ぬ気で早起きを頑張ると言っていたのに、目覚ましもかけ忘れて寝坊して、集合場所の駅まで母に車で送ってもらう…しかも、直前まで集合場所を、似た名前の違う駅だと勘違いしていた。2.ゲレンデの上で、これから滑るぞと集中を高めている男性に、水を差すかのように写真撮影を依頼。3.帰りの関越自動車道の後部座席、少量のミルクティーを足元にこぼし、タオルを探しても見つからなかったところで「まいっか」と発言。などなど。

 

ところで、ここで不思議なことが起こる。先に「冬を先取り」と書いたが、これまで書いてきたように様々な出来事があった11月、その中心と位置づけていた友人同士の結婚式から派生したスノーボードインパクトによって、自分の中では11月が丸ごと冬の季節に書き替えられてしまった感覚になった。だから今、深い実感をもって、『マチネの終わりに』の一節を思い出すのだ。

「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでいる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです。変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える。過去は、それくらい繊細で、感じやすいものじゃないですか?」

これはより長い年月について言及したものだろうが、たった1か月の短い期間でもこのようなことが起こるのかと、新鮮な驚きを感じる。そういえば、フットサルの些細なプレーにしろ、噺家の所作にしろ、オーケストラのリハーサルの細切れの演奏にしろ、もちろん、川上弘美さんの研ぎ澄まされた文章も、好ましい意味で、繊細で、柔軟なもののようにも思える。それらがみな冬に…。かくして、この冬にはたくさんの良きことがあったなあと、12月に入る時点で十分な満足感があり、もう冬が終わってもいいという心持ちになっている次第である。