Weekend Note

2010年ブログ開設。日常、建築、旅行などについて書いています。

シュールレアル散歩

5月末、府中にある宿泊室付きの大きな研修施設にて、1泊2日で中堅社員研修なるものがあった。プロの外部講師の方のもとで、自己啓発、自己成長といったテーマで様々な講義や演習が行われた。役に立ったかは年月が経って振り返らなければなんとも言えない。少なくとも、裏方で準備や調整にあたってくださったスタッフの方々には頭が下がる思いだ。

一日目の夜、ほぼ丸一日会議室で過ごした心身を外の風に当たって緩めようと、飲み物やちょっとした夜食を買いに出た。ただ、研修施設は市街地から外れた郊外にあり、すぐ近くにお店がない。そこで西に1キロ離れたところにあるスーパーまで歩いて行ったのだが、この散歩が思いがけず、非常にインパクトのある体験となった。郊外の夜は薄暗い。道の北側には東芝の事業所の巨大な敷地が広がり、一日の仕事を終えた従業員の人たちが門からちらほらと出て来る。敷地沿いに歩けども歩けどもスーパーは遠く、なかなか敷地境界の生垣が尽きない。ようやくたどり着いたスーパーの建つ交差点の角のひとつには送電鉄塔がいきなりそびえていて、その後ろに控えめにコンビニか何かが場所を占めている。少し寄り道した帰り道にも、なぜか数百メートルも左折できない妙な区画があったりする。他にも、いかにも年季の入った団地の、草が生えるにまかせた、いじけたような公園。ポスターの右上の画鋲が外れて斜めにだらりと垂れ下がっている地域広報掲示板。かと思えば、やけに真新しく快適そうな建売住宅の一帯もある。自分が日頃暮らしている街とは異なるスケールアウトした土地利用がなされている地域、しかも夜のとばりに隠されてその全体像はつかめない。シュールレアリスム的な小説や絵画の世界に放り込まれたように、散歩の中で目の前を行き過ぎる断片が異様な存在感をもって現れる。

後から調べてみると、自分が歩いていたのは住所でいうと府中市東芝町、本宿町、日鋼町だったようだ。東芝府中事業所は77ヘクタールにも及ぶ工場施設。また研修で滞在していた施設は、元々は日本製鋼所東京製作所だった場所が平成初期に再開発された「府中インテリジェントパーク」の建物群のひとつだという。

この地域を走る京王の路線バスの側面には、府中インテリジェントパーク経由で府中駅に向かうという経路案内が書かれているのだが、正面上部の方向幕には、省略して「インテリ 府中駅」と表示されている。インテリの人しか乗車が認められないかのような意味にも取れる。なので、研修中の言動がインテリジェンスに富んだものだった自信がない自分は、二日の間にそのバスに乗ることはなかった。