Weekend Note

2010年ブログ開設。日常、建築、旅行などについて書いています。

アアルト展

やはり、アアルトの建築はとらえどころがない。

東京ステーションギャラリーで開催中のアルヴァ・アアルト展に行ってきた。世界を巡回中で、日本でも久々のアアルトの展覧会であるらしい。まとめ方は丁寧で、時代やテーマごとにアアルトの設計した建築やデザインした家具などが、ドローイング、模型、写真、動画などで紹介されている。特に写真は美しく、有名な木製椅子「スツール60」や自由な曲線のガラスの花瓶「サヴォイ・ベース」の製造過程の動画などは知っているようで知らなかったので勉強になったりもした。ただ、順路を巡るにつれ徐々に、アアルトの建築は現地で体験しなければわからない、どうしようもないとの感想も強まっていった。

建築の展覧会は絵画などと違って実物を展示できない、とはよく言われる。でも、だからこそ、建築の特徴や本質を表現した図面や模型が「それも独立したひとつの建築」として提示されることに面白さがある。たとえば昨年の東京ステーションギャラリーでの隈さんの展覧会などは、まさに建築の部分や素材やディテールが前面に押し出されていた点が魅力だった。しかし、ことアアルトに関しては、自分がフィンランドで実際にアアルトの建築を訪問した体験を思い出し、照らし合わせてみると、別のメディアに変換された途端、どうしてもその場の空気感が置き去りにされるような気がした。どれか特定の要素を取り出して全体を説明することがきわめて困難な一体感があり、建築およびその周辺環境それ自体以外では表すことができないものなのではないかと。キュレーション側もそのあたりの不可能性は十分にわきまえているように見えた。奇をてらって限られたギャラリーの中に世界観をでっち上げるのではなく、また巨匠のイメージをいたずらに強調するのでもなく、ただ淡々と展示を行っていた印象だ。予算が許すなら、出口でヘルシンキ行きの航空券を観覧者ひとりひとりに配布したかったところだろうが。

アアルトの建築に対しては、とらえどころがないという言葉で「とらえる」こと自体が無粋である気すらする。