Weekend Note

2010年ブログ開設。日常、建築、旅行などについて書いています。

井上靖について

先週末の研究室合宿で訪れた場所のひとつが、三島から富士山の方へ登っていった山の中にある、井上靖文学館である。建物の設計は昨年亡くなった偉大な建築家の菊竹清訓(前日に見学した沼津の芹沢光治良記念館はコンクリート打ち放しの小さな記念館で、手仕事の痕跡が感じられて好印象)だが、今日の記事での主役は井上靖です。

井上靖は大学1年生の頃に何冊か読んだ。作者の少年期が結晶化されたような自伝的小説『あすなろ物語』や『しろばんば』『夏草冬濤』の悲哀や清冽な読後感は忘れがたい。また『氷壁』は僕にとっては小説の代名詞といってもいいほどの作品で、緻密な構成から情景・心情の描写にいたるまで、小説という表現形式が読む人の心にはたらきかける力を堪能できる傑作だと感じた。

加えて今回文学館を訪ねて、これまであまり読んでこなかった井上靖の一連の歴史小説についても、そこで登場する地域や時代をあまり知らないこともあり、読んでみたいと思うように。早速館内で一冊購入。

派手でもファッショナブルでもないけれど自分の精神の地下鉱脈に滔々と流れている井上靖という作家が、掘り出されてまた意識の地表に湧き出てきたような感覚。伊豆への旅行はそのきっかけにもなるものだった。