Weekend Note

2010年ブログ開設。日常、建築、旅行などについて書いています。

建築のバティストゥータ

主に修論の頃から、東京の街を歩き回っている時に有名建築家の設計した住宅など(雑誌等のメディアからは住所が特定できない建築)に出くわすことがよくある。たとえば以下のような。

・梅林の家(妹島和世
・WHITE CUBE(千葉学
・シロガネの家(武井誠+鍋島千恵)
・SAKURA(原田真宏+原田麻魚)
・城戸崎邸(安藤忠雄
・HOUSE NA(藤本壮介
・HOUSING S(藤村龍至

偶然見つけたときは一瞬気分が盛り上がるのだが、これらの住宅や集合住宅のうちの多くは、開口を大きく取りすぎていて内部が暑そうだったり、中が見えすぎて気まずかったり、あるいは外装の汚れが甚だしかったり、建築として成功していないように見えるものが多い。これはあくまで外から見ての感想に過ぎず、もし住んでいる方々が満足しているのなら外野からつべこべ言う筋合いはないけれど。

先日たまたま発見した長谷川豪の「駒沢の住宅」。この家はとてもいい建築だと思えた。ユーカリ・レッドガムを用いた風格ある外装、屋内外の関係を考慮して必要十分に注意深く設けられた、木製サッシの窓。夕暮れ迫る時刻に家の中から漏れる橙色の光は、閑静な住宅街のなかで豊かな詩情を奏でているようにすら思えた。いい建築を見ると元気が出る。早速『新建築』で「駒沢の住宅」の箇所をコピーし、図面をトレースした。写してみると実にシンプルな構成だとわかる。よいデザインほど、それが簡単にできてしまったように見えるものだ。

修論の時期に話は戻るが、研究室の先輩から「建築を見つける嗅覚があるのかもね」と言われたことがある。でもそれも、見つけた建築についての話をして生き生きとした批判精神鋭いリアクションを返してくれる彼らがいたから培われた(?)感覚だとも思える。

往年の名ストライカー、元アルゼンチン代表のガブリエル・バティストゥータは、「ゴールがあるから蹴るのではない。俺が蹴るからゴールがあるんだ」との名言を言ってのけたという。「自分が行く所にいい建築がある」と確信を持って言えるくらいの嗅覚や感性に憧れる。