Weekend Note

2010年ブログ開設。日常、建築、旅行などについて書いています。

「ふたりのイームズ」、アップリンク、渋谷

東京は広いので、どこに行っても久しぶりという気分になることが多い。先日は久しぶりに渋谷に行き、ドキュメンタリー映画「ふたりのイームズ」を観た。チャールズとレイの夫婦の恊働ぶり、20世紀のアメリカの時代背景など勉強になった。また、イームズ夫妻が多くの映像メディアの製作(確か映画中ではビジュアル・コミュニケーターという言葉が使われていた)を手がけていたことはあまり知らなかった。そして、イームズ邸の映像も期待通り美しかった。

ただ、映画の構成は始まってすぐに予想できた通り、「起」「承」でイームズ夫妻がデザイナーとして成功を収め、「転」でキュレーションを務めた展覧会の酷評などネガティブな話題も取り上げた後「結」に向かうという、テレビ番組などでも見慣れたパターンのもの。僕にとってはドキュメンタリーとは観る際にまず疑ってかかるべきもので、「これで分かった気になってたまるものか」との自分への怒りのような気持ちを大切にしたい。だって、関係者のインタビューの断片的なつぎはぎを、どうして鵜呑みにできようか。

この記事はここから「転」となるが、今回初めて訪れた映画館「アップリンク」はこぢんまりとした雰囲気が素直に好感が持て、どうして今までほとんど誰も教えてくれなかったのだろうと思った。道路から半階上がった所に設けられたカフェへのアプローチがいい。2階に上がると書籍販売コーナー、奥に観覧室がある。観覧室のインテリアもかわいらしい椅子が並んでいて、観客同士の緩い一体感に一役買ってくれている。

アップリンクから渋谷駅に向かう帰り際に気づいたのだが、大学1、2年生の頃に通っていた駒場キャンパスが近かったこともあり、飲み会などで幾度となく渋谷には来ている。しかしそのわりには、建築に関係してこれといって記憶に残っているシーンが非常に少ない。あくまで個人的にだけれど。渋谷の街の極度にヴァーチャルな、五感がある種の麻痺状態(?)に陥るような街並みがそうさせるのだろう。一方で、飲み会などの行き帰りの、斜めの道や坂道を歩いている歩行感覚はよく思い出される。道や地形を通して渋谷の街を自分は身体化してきたのだと思う。建築ではなく。

こうした自分の体験・感覚からすると、わりと例外的にリアルな建築体験が印象的だった東急東横線の渋谷駅のターミナルがなくなってしまったことも、相当に必然性が強かったのではないかと思えてくる。そして、そうした現象も醒めた目で眺めるようになった自分が少しさびしくもある。昔だったらもっといちいち目くじらを立てていた気がするのだが。ある知人が今年の3月に東横線の渋谷駅がなくなるとき、フェイスブックに駅の美しい写真に添えて「大げさって思うかもしれないけど(中略)たくさんの思い出があるこの場所」と書いていたことが突然思い出された。