Weekend Note

2010年ブログ開設。日常、建築、旅行などについて書いています。

ひどく絵になる乱太郎

先日、ふと思い立って若手の創作家のトークイベントを聴きに行った。詩人の大崎清夏さん、歌人の伊波真人さんの対談。自分には馴染みのない分野だったけれど、お知らせのポスターを見かけた時に直感的に惹かれたのだった。あとはその日時に暇があったから。

30代前半のお二人は会社の隣の席で働いていそうな、いい意味で普通の、親しみやすい和やかな雰囲気で話されていた。でももちろん、言葉で勝負する芸術家らしい感性や発想の豊かさも随所に垣間見られた。創作のスタンスの話や、趣味の音楽の話への脱線、自作の詩歌の朗読などがゆるゆると進む。イベント終盤、伊波さんが

日陰から日陰に移る束の間に君のからだは日時計になる

を朗読したときに、僕は結句の「日時計になる」の部分を最初「ひどく絵になる」と聞き間違え、二度目に読まれた際に正しく聞き取れた。勘違い版も、突如なげやりな調子に変わるところがなかなか味わいがあると思った。イベントの後のサイン会で、伊波さんの歌集『ナイトフライト』にサインをしてもらった時にそのことを伝えると、増版されたときはひどく絵になるに変えます、と笑いながら伊波さん。聞き間違いというのも面白いですよね、と大崎さん。

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子供のころに『ドラえもん』が大好きだったという作家やデザイナーの方がちらほらいるが、自分の場合は何といっても乱太郎。漫画の題は『落第忍者乱太郎』、アニメは『忍たま乱太郎』。乱太郎の世界は、果てしなくくだらない聞き間違いの宝庫である。漫画は実家の納戸にあるので今は手元にないが、例えば「これらがひとつ」を「コレラがひとつ」、「宿命のライバル」を「スルメのライフル」など、挙げればきりがない。そうかと思えば、学園長がぶふぉぶふぉと漢詩を口ずさんだりもする。
学園長の部屋の掛け軸が何者かに破られるという事件が発生したときのこと。土井先生が落ち着いて「そういえばあれは学園長がひと苦労して書かれた掛け軸でしたね」と学園長に確認する。それを聞いたしんべエは「総入れ歯アロハ額面帳がヒト殺して炊かれたかけ汁なんだって」と喜三太に伝える。喜三太はただキョトンとした表情を浮かべている。

また別のおり、土井先生が忍術学園の火薬庫の中に入っていく。「この中暗くてなー」とぼやく土井先生。しんべエがどこからか持ってきた松明を「はい先生、あかりー」得意げに掲げるが、土井先生は驚愕してのけぞる。次のコマで土井先生は棍棒でしんべエをぼこぼこに殴り、顔の大きさを二倍にして泣き喚きながら叱る。「ここは火薬庫だぞ火薬庫。煙硝蔵だぞ煙硝蔵。火気厳禁だ火気厳禁ー」。ぶぁくはつしたらどーする、というツッコミも、吹き出しの外に手書きで添えられている。次の横長のコマ、右側で瀕死にあえぐしんべエに対し、中央にあらわれた乱太郎が後ろに手を組んで、胸を張って笑顔で「そうだよ、しんべエ。柿は現金で買うものだよ」優しく諭すように言う。しかし乱太郎は気付いていない!すぐ後ろで、激情おさまらない土井先生がくだらない洒落を言って悦に浸る乱太郎に狙いを定めて棍棒をバットのように構えていることに!最後のコマ、まだ怒りに顔をこわばらせた土井先生のきれいなフォロースルーのその先、乱太郎は斜め上方に真っ直ぐな軌道を描いて飛んでいった。カキーン、という痛快な効果音を響かせて。