Weekend Note

2010年ブログ開設。日常、建築、旅行などについて書いています。

もう冬が終わってもいいと 1

またまた久々の更新となりましたが、変わらず順調に過ごしております。仕事では、自分が出張する機会はないけれど、ジャカルタの物件などもしております。ブログが途絶えていたのは、毎日の日記を以前より詳しくつけるようになったこと、承認欲求という言葉がこれだけ世俗化された中でわざわざ自分が迎合するかのように発信することもなかろうと思うこと(最近はSNSにも飽き気味である)など。これら諸々の理由がありながらも更新のトピックとなったRebuildは、やっぱりすごいのだと妙に感心しもする。

でもこの11月は、いわゆる充実した日々だったので、備忘録も兼ねて久しぶりにブログも書いてみようと思った。意識高く外へ目を向けたいという気持ちと、何もしないと内向きのつまらなさばかりが蓄積していくのではという危機感が半々くらいというのが最近の気持ちの成分構成であろうか。で、11月以降の主な出来事。

○サッカーでは、高校時代のメンバーを中心とした毎月のフットサルに勤勉に参加。自分も精神的に成熟したのか、チームメイトとの連携も深まって、自分史上でも最も利他的なプレーにつとめるようになった。特に攻撃から守備への切り替え、帰陣とか。また別の日には、会社のフットサルにも参加して親睦を深めた。よい心がけだ。サッカー関連でもうひとつ書くと、埼玉スタジアムACLアジアチャンピオンズリーグ)決勝を観戦した。浦和レッズのサポーターの声援やコレオグラフィーはすさまじく、それだけで感動ものである。ただし、相手チームがボールを保持しているだけで大ブーイングをあびせ続けるのには賛成できない。「さすが浦和、すばらしい」と「これだから浦和は…」の両方の思いが深まった。

○落語家になった高校の同級生が出演した寄席を新宿の紀伊国屋ホールに観に行った。落語はユーチューブで見たことはあったが、寄席に行くのは初めて。前座の後、最初に高座にあがった同級生の三遊亭好吉くんは、こなれた調子で演目を披露していた。「笑点」でおなじみの好楽など、ベテランの落語家の風格はさすが。落語は演出や動作が少なく、噺だけで情景を想像するところが自分にとっては親しみやすいエンターテインメントだと思った。値段も手頃。

○偶然か必然か、その翌日も紀伊国屋に行くことに。目的は、小説『森へ行きましょう』刊行記念、著者の川上弘美さんサイン会である。川上弘美さんの小説は、高校のときに国語に模試に出てきて大変解きづらく、大学のときに『センセイの鞄』を読んで独自の世界に惹かれつつも、まったり感を押し付けられているという後ろ向きな感想も持ち…と、苦手意識も強かった。けれども第一線で書き続けている力のある作家さんだということは分かりきっているので、今回再挑戦してみることにした。まずサイン会は、(川上未映子さんや中村文則さんのそれと比較して)地味なもので、サインの文字もふつう。やりとりも、
川上「ありがとうございます」
自分「ありがとうございます」
という、あっさりとしたものだった。
『森へ行きましょう』は1ミリの文句もなしに良かった。
売る気があるのかないのかわからんような素っ気ない装幀、ストーリーも単純、文体も平易そのもの。しかしそこには全編にわたって小説の技法がしかと埋めこまれている。最高の技術を具えた職人の手による工芸品のようである。

○うちの会社は月に一度、自由な日に15時に退社することができる。この早帰り日を利用して、話題の「怖い絵展」を見るべく上野に行った。ところが着いてみると入場80分待ちの行列ができていたので、あっさりと断念し、恵比寿ガーデンプレイスの写真美術館で開かれていた「長島有里枝展」に移動する。こちらは適度な混み具合、つまり、かなり空いていた。長島さん自身が家族とヌードで撮影した白黒写真で構成される「セルフ・ポートレイト」のシリーズ、実際には血縁関係がない人々を集めてまるで家族の記念写真のように撮影した「現在のポートレイト」のシリーズ、この2つが向かい合わせに配置された展示構成には、家族とは何か、という問いに対する、露骨な嫌味とすら言えるほどの皮肉や批評を感じて、愉しかった。それにしても、全体的には低俗ここに極まれりといった雰囲気を放つ恵比寿ガーデンプレイスの一角に、どうして写真美術館のような、マスは狙えない現代的なアート施設が入っているのか。不思議な対比だ。

○ある日突然、会社の同僚の派遣社員のTさんから、日本に公演に来ているベルリン・フィルハーモニーのリハーサル観覧に誘われ、行くことになった。なんでも、団員のイエゴールというロシア人のフルート奏者と友人なのだそう。他の同僚と4人で早めに退社し、サントリーホールの裏口へと向かった。じきにイエゴールと、ツアーに同行している弟のカメラマン、セルゲイがやってきて、挨拶をする。人柄の良さが滲み出ている兄弟だ。僕たちは客席に移動し、リハーサルが始まる。観客も数百人ほど(?)いる。団員の方々は普段着の格好で、まだ本番前だしな、という余裕があるように見える。指揮者のサイモン・ラトルアインシュタインのような風貌をしていて、ジェスチャーや喋り方がきびきびとしていて面白かった。一時間ほどでリハーサル終了。本番を聴かない僕たちは退散する。
イエゴールの出番は最初の一曲のみだったので、20時頃には滞在先のホテルのロビーで再会し、Tさんとセルゲイと一緒に夕食の天ぷら屋さんにタクシーで向かう。イエゴールいわく「写真おたく」のセルゲイは始終、車窓から見える街の写真を撮っている。天ぷら屋さんはJRのガード下の、庶民的で美味しいお店だった。隣のお客さんに延々とからまれて、兄弟の話があまり聞けなかったのは残念。