Weekend Note

2010年ブログ開設。日常、建築、旅行などについて書いています。

和泉川、谷戸の風景

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先の日曜日、知人の溝部さんが設計した住宅のオープンハウスに訪れた。場所は横浜市の内陸部、相鉄線いずみ中央駅から十分ほど歩いたのどかな住宅地で、少しだけ高台になっている敷地に木造二階建てのその家は建っていた。午後二時ちょうどに到着すると、現地集合することにしていた友人が既に着いていて、二人して溝部さんの説明を聞きつつ家の中を見て回る。四角い平面の西側を三角に切りかかれたテラスが特徴で、近所の森への眺望がうまくコントロールされた気持ちのいい家だった。

いずみ中央駅からひとつ隣のいずみ野駅で電車を降りて友人と別れ、そこからバスと徒歩で北に向かい、東海道新幹線の線路の上を横切り、和泉川に出る。あまり有名ではないが、和泉川は横浜市を北から南に流れる二級河川で、谷戸の風景を守る河川整備の取り組みが2005年の土木学会デザイン賞の最優秀賞を受賞している。近くに来たのを良い機会に、歩いてみることにしたのだった。

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和泉川から分岐するように池が開けた宮沢遊水池から北へ遡るように歩きはじめる。写真のように、両側に斜面林、中央に自然の水敷の和泉川の小さな流れ、その間に道や宅地や畑地が平行に続く。浅い谷によって市街地や幹線道路から隔絶された、緑の匂いのたちこめる谷戸の風景は、汗がぼたぼたと落ち続ける現実離れした烈暑も手伝って、しばしの別世界のようだ。静かでありつつ人の生活の気配もあり、岸辺で遊んでいる親子や畑仕事に精を出すおじいさんと行き合った。鳥や蛇も見た。地形と自然と土地利用の構成のゆるやかな秩序、その変奏が美しい。川沿いを数キロ歩き、最後は相鉄線三ツ境駅から帰途につく。

もともと和泉川のことを知ったのは、都市再生の事例を集めた書籍『世界のSSD100』(SSDはSustainable Site Designの略)の中で紹介されていたから。その本の中で、和泉川において谷戸の景観の保存や多自然型の河川空間の整備が成功した理由が二つ挙げられている。ひとつは、二級河川であるため、まちづくりの主体者である横浜市が同時に河川管理者であり、調整や連携がよく機能したこと。もうひとつは、市の職員だけでなく市民をも巻き込み、その交流が円滑な合意形成に寄与したこと。なお、同書の和泉川のページのとびらには、水辺にふくらはぎまで浸かって遊ぶ一人の男の子の後ろ姿の写真が掲載され、「河川の整備によって一番恩恵を被るのは、最も視線が地面に近い人たちかもしれない」という言葉が添えられている。このようなきざな言い回しを読んだり聞いたりするのは嫌いではない。